RNA-seqとは

2. 遺伝子とRNA

遺伝子は、RNAを作る情報を持つDNAの領域です。タンパク質を作る遺伝子では、情報がmRNAに写され、それをもとにタンパク質が作られます。

DNA → mRNA → タンパク質

DNAからRNAを作るのが転写、mRNAからタンパク質を作るのが翻訳です。

RNA量から、遺伝子の発現量を調べられます。

3. RNA-seqの仕組み

①は細胞内でDNAからRNAへ転写する過程。②では細胞サンプルからRNAを抽出して断片化する。③逆転写でcDNAに変換し、④次世代シーケンサーで配列を読む。⑤参照配列と照合して由来する遺伝子を調べ、⑥遺伝子ごとにリードを数えてRNAの量を推定する。

一般的な短鎖RNA-seqでは、サンプルからRNAを抽出・断片化し、cDNAに変えて配列を読みます。読み取った配列をリードと呼びます。

リードを参照配列と照合して由来する遺伝子を調べ、遺伝子ごとに数えてRNA量を推定します。

数えた結果を、カウント表にする

表の1行は1遺伝子、1列は1サンプルです。ControlとTreatの各群で複数のサンプルを測り、ばらつきを調べます。

各群3サンプルを抜粋
遺伝子Control-1Control-2Control-3Treat-1Treat-2Treat-3
Gene01809773381423
Gene021059589265560
Gene0313536133126161
Gene0411372139219240
Gene051611692011119193
Gene06169165204112179144
Gene0717725319620417811
Gene081347317395137
Gene09989894175161145
Gene1012588163235258235
Gene11118124150371401271
Gene127961215525396490
Gene13171206156534595
Gene14247101210105161
Gene159594113134778
Gene162078645197116
Gene17111110124948196
Gene18103111158182112110
Gene198513718998181181
Gene2017396255155148337
Gene21198197197356317312
Gene227911586157178161
Gene23210111112233303232
Gene2410136262355327428
Gene25154126125142147163
Gene26148161245155123124
Gene271491149168168108
Gene28196142421236275164
Gene29727069778883
Gene301011377393149100
Gene31130951371436451
Gene321731408414286233
Gene33178165177171145178
Gene3415813160196197171
Gene35821291955464271
Gene3628144641551491
Gene379471108857880
Gene38147135146102116121
Gene392031017715673222
Gene4017471414230198248
Gene41213217212177151144
Gene42160172195115161225
Gene43702997688476
Gene44190200585101114
Gene45118116120138141144
Gene46126154180163180112
Gene47177194236108111161
Gene4852428014184149165

問題:このまま比較してよい?

Gene01の発現量に、Control群とTreat群で差があるかを知りたいとします。

Control{80, 97, 73}
Treat{38, 14, 23}

この値が正規化前のカウントなら、そのまま比較して発現量の差を判断してよいでしょうか?

答え・解説を見る

× そのまま比較してはいけません。

カウントは、RNAの量だけでなく、サンプルごとに読み取ったリードの総数にも左右されます。たとえば、RNAの割合が同じでも、読み取る総数が2倍なら、その遺伝子のカウントもおおむね2倍になります。

左右に並ぶ弓道の的。左は9本が命中し、1本が外れている。右は15本が命中し、90本が外れている。
左:9/10 的中0.90 Win
右:15/105 的中約0.14

「当たった本数」は右のほうが多いですが、試行回数を考慮した「命中率」は左のほうが高くなります。

また、一部のRNAが多いと、ほかのRNAに割り当てられるリードの割合も変わります。こうした読み取り量やRNAの構成の違いを考慮し、サンプル間で比べられるようにする処理が正規化です。

代表的な解析ソフトのDESeq2は、正規化を考慮して検定し、群間で発現量が有意に変動する遺伝子を調べます。

DESeq2の解説

4. 発現量の変化

fold changeは、Treatの平均発現量をControlの平均発現量で割った比です。log₂ fold changeは、その比を2を底とする対数で表します。

Treat / Control log₂ fold change 意味
2 +1 Treatで2倍
1 0 同じ
0.5 −1 Treatで半分

正ならTreatで多く、負ならTreatで少なくなります。比較の向きを逆にすると、符号も逆になります。

5. p値と多重検定

平均が違っても、サンプルのばらつきで説明できるかもしれません。p値は、差がないという仮定と検定の前提のもとで、観測された差以上に極端な結果が出る確率です。

多くの遺伝子を同時に調べると、偶然小さなp値も増えます。そこでBenjamini–Hochberg(BH)法などでp値を調整します。

DESeq2の結果を表で見る

DESeq2の結果表には、遺伝子ごとの発現量の変化やp値が並びます。比較の向きはTreat / Controlです。

遺伝子名 baseMean log2FoldChange p-value padj
Gene01 120.0 −1.00 0.001 0.005
Gene02 250.0 +1.50 0.004 0.010
Gene03 85.0 +0.10 0.650 0.650
Gene04 180.0 −0.80 0.030 0.050
Gene05 60.0 +0.30 0.200 0.250

列の読み方を示す架空の数値です。

  • 遺伝子名:どの遺伝子の結果かを示します。
  • baseMean:正規化したカウントの、全サンプルでの平均です。
  • log2FoldChange(Log2FC):発現量の変化をlog₂で表した値です。
  • p-value:群間の差を検定したp値です。DESeq2の列名は pvalue です。
  • padj:多重検定を考慮した調整済みp値です。DESeq2では標準でBH法を使います。

列の定義:DESeq2の公式解説

6. ボルケーノプロット

表の1行を、図の1点にします。1点は1遺伝子です。

横軸

log₂ fold change

変化の方向と大きさ。左はTreatで少なく、右はTreatで多い。

縦軸

−log₁₀ 調整済みp値

上に行くほど調整済みp値が小さい。

遺伝子の表とボルケーノプロット

● Treatで減少● Treatで増加○ 基準外

塗りつぶした点は、調整済みp値が0.05未満、かつ|log₂ FC|が1以上の遺伝子を示します。

012調整済みp = 0.05−log₁₀ 調整済みp値-2-10+1+2log₂ fold change(Treat / Control)← Treatで少ないTreatで多い →Gene01
人工遺伝子の変化量とBH調整済みp値。遺伝子名で選択。
遺伝子log₂ FC調整済みp
-1.750.010
-1.360.010
-1.300.104
+0.870.325
-0.570.016
-0.240.233
-0.220.747
+0.600.396
+0.680.010
+1.180.010
+1.380.010
+1.300.016
-1.720.010
-1.420.071
-0.610.208
-0.730.464
-0.400.010
-0.130.733
-0.520.397
+0.110.876
+0.640.010
+1.060.010
+0.950.016
+1.870.010
+0.110.325
-0.460.030
-0.140.876
-0.600.396
+0.060.692
+0.360.264
-0.250.718
-0.270.733
+0.020.906
+0.340.448
-0.150.876
-0.090.906
+0.040.876
-0.300.126
-0.170.876
+0.150.876
-0.330.042
-0.070.876
-0.110.876
-0.470.690
+0.140.337
-0.030.906
-0.790.104
-0.020.972
選択中の遺伝子

Gene01

基準を満たす・Treatで減少

log₂ fold change
-1.75
Treat / Control
0.30 倍
調整済みp値(BH)
0.010

発現量の変化だけでは、原因や働きまでは分かりません。

データの生成条件と計算方法

全48遺伝子、ControlとTreatを各6反復。独立な正規乱数を整数に丸め、1未満は1とした任意単位の模擬発現量です。乱数シードは20261023。基準量は80〜200、標準偏差は基準量の0.12 / 0.25 / 0.45 / 0.65倍。Treatの期待値は、最初の24遺伝子では基準量×2のe乗(e = −1.6 + (0始まりの番号 mod 12)×0.29)、残りはe = (番号 mod 5 − 2)×0.07です。

横軸は反復平均の比のlog₂。p値は12個の値を6対6に分ける全924通りの、平均差の絶対値を使った両側の正確置換検定から計算し、全48検定をBH法で調整しています。ライブラリサイズの正規化やRNA-seq特有の分布を扱う解析ではなく、統計的な指標を読むための簡略例です。実データの解析には、その実験に合った手法が必要です。

選択中のGene01:Control [80, 97, 73, 79, 73, 87]、Treat [38, 14, 23, 34, 16, 20]。

7. GSEA

GSEA(遺伝子セットエンリッチメント解析)は、遺伝子セット(ある働きに関わる遺伝子の集まり)が、順位の上位か下位に偏るかを調べます。順位は発現量の変化などで決めます。

カレーの材料の位置を、1本の曲線にする

序論と同じ121商品を「夏 ÷ 冬」が大きい順に並べます。左からたどり、カレーの材料11品では曲線を上げ、それ以外では下げます。

カレーの材料の位置と累積スコア序論と同じ121商品・材料11品
カレーの材料それ以外
カレーの材料は順位の上位に集まる夏を冬で割った売上比の大きい順に121商品を並べた図。材料11品の位置を茶色の棒で示す。材料で11分の1上がり、材料以外で110分の1下がる曲線は、34位でES約プラス0.69となり、121位で0に戻る。累積スコア(running ES)-10+1ES +0.69(34位)1位:すいか2位:もも3位:そうめん4位:とうもろこし5位:メロン6位:アイスクリーム7位:麦茶8位:オクラ9位:めんつゆ10位:にんじん(カレーの材料)11位:ズッキーニ12位:大葉13位:みょうが14位:ぶどう15位:じゃがいも(カレーの材料)16位:しょうが(カレーの材料)17位:きゅうり18位:なす19位:パイナップル20位:鶏肉(カレーの材料)21位:たまねぎ(カレーの材料)22位:こしょう(カレーの材料)23位:トマト24位:ミネラルウォーター25位:ピーマン26位:レモン27位:にんにく(カレーの材料)28位:カレールー(カレーの材料)29位:ジュース30位:小ねぎ31位:アスパラガス32位:ドレッシング33位:食用油(カレーの材料)34位:塩(カレーの材料)35位:レタス36位:豆腐37位:中華麺38位:パプリカ39位:酢40位:いりごま41位:そば42位:アボカド43位:たこ44位:あじ45位:にら46位:グレープフルーツ47位:いか48位:いわし49位:かつお節50位:ツナ缶51位:パスタ52位:豚肉53位:牛肉54位:ヨーグルト55位:ポテトチップス56位:ビーフン57位:セロリ58位:キウイ59位:ハム60位:ウインナー61位:あさり62位:乾燥わかめ63位:マヨネーズ64位:米(カレーの材料)65位:しょうゆ66位:もやし67位:バナナ68位:納豆69位:牛乳70位:シリアル71位:玄米72位:オートミール73位:米粉74位:合いびき肉75位:焼きのり76位:ケチャップ77位:卵78位:食パン79位:キャベツ80位:チーズ81位:コーヒー82位:パン粉83位:片栗粉84位:オレンジ85位:ベーコン86位:うどん87位:小麦粉88位:みそ89位:鮭90位:さば91位:バター92位:ホットケーキミックス93位:かぼちゃ94位:小松菜95位:エリンギ96位:えび97位:油揚げ98位:しめじ99位:ブロッコリー100位:カリフラワー101位:まいたけ102位:厚揚げ103位:ごぼう104位:ほうれん草105位:りんご106位:れんこん107位:長ねぎ108位:えのき109位:しいたけ110位:こんにゃく111位:大根112位:チョコレート113位:里芋114位:しらたき115位:さつまいも116位:シチュールー117位:たら118位:白菜119位:切り餅120位:いちご121位:みかん1346090121夏 ÷ 冬が大きい夏 ÷ 冬が小さい
塩材料なので +1/11

ここまでの割合の差10/11 − 24/110 = +0.69

34位までに材料11品のうち10品が現れ、曲線は頂点に達します。残る米は64位。曲線はそこまで下がり、米の位置で少し上がってから0に戻ります。

縦軸は、何を足し引きした値?

縦軸は、左から順に足し引きした累積スコア(running ES)です。0から始め、材料なら1/11を足し、それ以外なら1/110を引きます。

材料で足す量と、それ以外で引く量はそれぞれ合計1なので、最後は0に戻ります。0より上なら、材料11品のうちそこまでに現れた割合が、その他110品のうちそこまでに現れた割合を上回っています。縦軸は売上金額や増減率ではありません。

0から最も離れた点の値がエンリッチメントスコア(ES)です。この例は34位で約+0.69。正なら上位、負なら下位に材料が偏っています。

商品を遺伝子に、レシピを遺伝子セットに置き換える

GSEAの図でも、縦線はセット内の遺伝子の位置を示します。曲線の山や谷と合わせて、順位のどちら側に集まるかを見ます。

次の図では、48遺伝子をlog₂ fold changeの大きい順に並べます。左はTreatで増加、右は減少。「セットA」は左側に多く、右側にも一部がある16遺伝子の模式セットです。

遺伝子の順位とセットA

◆はセットA。log₂ fold change順。
順位 / 遺伝子log₂ FC
01◆Gene24+1.87
02◆Gene11+1.38
03◆Gene12+1.30
04◆Gene10+1.18
05◆Gene22+1.06
06◆Gene23+0.95
07◆Gene04+0.87
08◆Gene09+0.68
09·Gene21+0.64
10◆Gene08+0.60
11·Gene30+0.36
12◆Gene34+0.34
13·Gene40+0.15
14·Gene45+0.14
15·Gene20+0.11
16·Gene25+0.11
17·Gene29+0.06
18·Gene37+0.04
19·Gene33+0.02
20·Gene48-0.02
21·Gene46-0.03
22·Gene42-0.07
23·Gene36-0.09
24·Gene43-0.11
25·Gene18-0.13
26·Gene27-0.14
27·Gene35-0.15
28·Gene39-0.17
29·Gene07-0.22
30·Gene06-0.24
31·Gene31-0.25
32·Gene32-0.27
33·Gene38-0.30
34·Gene41-0.33
35·Gene17-0.40
36·Gene26-0.46
37·Gene44-0.47
38·Gene19-0.52
39◆Gene05-0.57
40·Gene28-0.60
41◆Gene15-0.61
42·Gene16-0.73
43◆Gene47-0.79
44·Gene03-1.30
45◆Gene02-1.36
46·Gene14-1.42
47◆Gene13-1.72
48◆Gene01-1.75
セットAの重みなし順位曲線横軸は順位、縦軸は累積スコア(running ES)。点線は全体、実線は現在のステップまで。絶対値が最大のスコアは0.56。最後は0です。-0.50+0.5累積スコア(running ES)ES +0.56012243648遺伝子の順位
00 / 48

開始点セットAで上がり、セット外で下がる

0.00
順位曲線の操作

◆はセットA。点線は全48遺伝子をたどった曲線です。0から最も離れた点の値(ES)は+0.56です。

スコアの計算方法

セットAの16遺伝子では1 ÷ 16、それ以外の32遺伝子では−1 ÷ 32を足します。上昇の合計は+1、下降の合計は−1なので、最後は0に戻ります。重みづけ、NES・FDRの計算は行っていません。

セットAは左から12位までに10遺伝子、39位以降に6遺伝子あります。曲線は左で山を作り、中央で0より下がり、右で再び上がります。

山や谷は、順位のどこにできる?

左側に縦線が集まると山、右側に集まると谷ができます。山や谷の位置を縦線と一緒に見ます。以下の模式図は、左がlog₂ fold changeの正、右が負です。

同じ64遺伝子・セット内16遺伝子をlog₂ fold changeの大きい順に並べた模式図

上位に集まる

+1 0 −1 Treatで増加 Treatで減少

上位と下位に分かれる

+1 0 −1 Treatで増加 Treatで減少

全体に分散する

+1 0 −1 Treatで増加 Treatで減少

中央付近に集まる

+1 0 −1 Treatで増加 Treatで減少

「上位に集まる」図は、左側に一つの山ができます。「上位と下位に分かれる」図は、左で上がり、中央で下がり、右でまた上がります。山と谷が続くとS字のように見えることがあります。

上位と下位に分かれるセットには、Treatで増えた遺伝子と減った遺伝子の両方があります。理由は曲線だけでは分かりません。この図のESは正ですが、下位にも7遺伝子あります。ES一つでは両側への分布を表せないため、両端の遺伝子を確かめます。

「全体に分散する」図では、曲線は0付近を小さく上下します。「中央付近に集まる」図も、上位・下位のどちらかに集まる形ではありません。

「意味があるか」は、曲線だけでは決まらない

比較の向きと順位づけの値を確かめ、縦線が集まる側を見ます。次に、先頭から山までのセット内遺伝子を調べます。ESが負なら谷から末尾までです。これをleading-edge(リーディングエッジ)と呼びます。上位と下位に分かれる図では、上位側の9遺伝子です。それらの遺伝子について、各サンプルの発現量も確かめます。

セットの定義が、調べたい働きに合うかも確かめます。上位に偏っていても、セット内の遺伝子すべてが増えたことや、その働きの活性化までは分かりません。山の高さだけで統計的な有意性も判断できません。

ここまでの図は、セット内の項目で同じ量を足す「重みなし」の計算です。標準的なGSEAでは、順位づけの指標の絶対値に応じて足す量を変えます。ESを正規化した値がNESです。統計的な評価には置換検定やFDRを使います。

出典:GSEA User Guide(ESと図の読み方)、GSEA FAQ(増加・減少する遺伝子を含むセット)

8. 確認問題

RNA量が増えれば、タンパク質の活性も上がる?

そうとは限りません。翻訳やタンパク質の修飾・分解も影響します。

ボルケーノプロットの塗りつぶした点は何を示す?

この図では、調整済みp値が0.05未満、かつ|log₂ fold change|が1以上の遺伝子です。

ESが正なら、セット内の遺伝子はすべてTreatで増えた?

そうとは限りません。セットが上位側に偏ることを示しますが、下位側にある遺伝子もあります。